バイオ創薬で医薬品業界が激変
世界の医薬品業界は、1970年代までは地域の中小企業が主体の分散型の産業構造だった。ところが、1980年代に分子生物学を基礎とするバイオ・テクノロジーが台頭し、創薬研究の生産性が飛躍的に高まった。これが、業界に変革をもたらした。
特に、糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病領域は大型製品が続々と登場した。先進国の人口の多数がターゲットだったためだ。
プライマリー・ケアに経営資源を投入
この革新により、製薬メーカーの逓増型の収益構造が実現した。生活習慣病をはじめとするプライマリー・ケア(1次医療)領域の有望新薬に圧倒的な経営資源を投入した。それを世界的なフランチャイズで拡販していった。製品価値と期待収益を最大限に高める手法である。
欧米の多くの大手製薬メーカーは、世界展開の流れのなか、このビジネスモデルを積極的に追求していった。
有望新薬を持つ競合他社を丸呑み
大手の製薬メーカーは、自社製品をあまねく市場で開発・販売するための手段として、また次世代の有望な新薬候補を確実に手中にする方策として、有望新薬をパイプラインに擁する競合他社を「丸呑み」していったのである。
ファイザーが買収で5倍に
例えば、世界最大手の米ファイザー。1995年時点の売上高は約100億 ドル(約1兆1800億円)だったが、2000年の米ワーナー・ランバート社の買収、2003年のスウェーデンのファルマシア社の買収を経て、売上高世界トップに躍り出た。2005年度の売上高は500億ドル(約5兆9000億円)と10年前の5倍の規模に急速に成長した。
リピトールだけで武田薬品を超える
ワーナー・ランバート社買収の目的は、企業そのものよりもワーナー・ランバート社が保有していた高コレステロール血症治療薬アトルバスタチン(今日のリピトール)の獲得が大きかったと言われている。
ちなみにリピトールは、その優れた特徴のみならず、ファイザーのグローバル・フランチャイズ戦略が奏功し、年間売上高(2005年度)が実に130億ドル(1兆5340億円)という超有望新薬に成長した。これは、日本国内トップの武田薬品工業の売上高を凌駕する規模である。
寡占化
このように世界の医薬品産業は、有望新薬の拡販モデルの台頭とメガ・ファーマの出現により、寡占化が急激に進んだ。メガ・ファーマの財務パフォーマンスも株式市場の評価もおおむね良好だった。