大畑亮介

産婦人科医と出産時の麻酔について。出産の痛みや無痛分娩の種類、比率、事故の事例や危険性、麻酔科医の医師の役割について紹介します。

出産方法の種類

出産方法にはいろいろな種類があります。大きく分けると、母体を切らずに赤ちゃんを取り出す「経膣(けいちつ)分娩」と、母体を切って取り出す「帝王切開」の二つがあります。

出産方法の種類
帝王切開 緊急帝王切開
予定帝王切開
経膣分娩 医療処置が必要な分娩 吸引・鉗子分娩
計画分娩
無痛分娩
自然分娩 水中分娩
産位分娩
フリースタイル分娩
ラマーズ法
ソフロロジー
リーブ法

無痛分娩の種類

無痛分娩を大きく分けると、「麻酔を使う方法」と「麻酔を使わない方法」に大別されます。「麻酔を使わない方法」にはラマーズ法やアロマセラピーなどがあります。一般的に無痛分娩として考えられているのは「麻酔を使う方法」です。

中でも主流になっているのは、局所麻酔を使った無痛分娩です。とりわけ「硬膜外鎮痛(こうまくがいちんつう)」という方式が世界的にも、また日本国内でもポピュラーです。

麻酔による無痛分娩の種類

・硬膜外鎮痛(こうまくがいちんつう)

・CSEA

計画の有無

また、同じ無痛分娩でも「自然分娩」と「計画分娩」という区別があります。

・自然分娩

・計画分娩

無痛分娩とは

無痛分娩とは、分娩中に痛みを感じない出産です。麻酔を使って痛みを感じないようにします。

一般的には、多少は痛みを感じる「和通分娩」や、麻酔が効いているか否かほとんど分からない「有痛分娩」も含まれる場合が多いです。産通緩和ともいいます。

無痛分娩の事故

無痛分娩の死亡事故は、経験や正しい知識を持っていない医師による麻酔と、麻酔の管理が適切に行われなかった場合が多いです。

麻酔を長時間入れた状態が続くのが大きな問題点です。管理する時間が長くなるのです。

2010年からの6年間で、日本産婦人科医会に報告された国内の妊婦さんの死亡例は、277件。そのうち無痛分娩は14件です。

無痛分娩や同じ麻酔方法でのお産を巡る事故

年月 場所 概要
2017年1月 大阪府和泉市 麻酔後に女性が呼吸不全となって死亡。子どもは帝王切開で生まれて無事
2016年5月 京都府京田辺市 帝王切開の麻酔後に女性が昏睡(こんすい)状態に。母子ともに重い障害
2015年9月 神戸市 麻酔後に女性が呼吸困難、意識が戻らず先月死亡。生まれた男児も重い障害
2015年8月 神戸市 陣痛促進剤を投与して出産後、子宮内で大量出血。女性はその後死亡
2012年11月 京都府京田辺市 麻酔の直後に女性が心肺停止。母子ともに現在も寝たきり状態
2011年4月 京都府京田辺市 陣痛促進剤を基準から逸脱して投与。女児が脳性まひとなり、3歳で死亡

死亡原因

1位:子宮から出血。

その多くは、母体に羊水が流れ込み、呼吸循環器系が起こるケース

出産直後に子宮が収縮せず、大量出血に至ったケース

無痛分娩の比率の海外と日本の比較

日本は欧米に比べて無痛分娩の比率が低いです。アメリカやフランスは出産の6割が無痛分娩です。しかし、日本は1割以下(5%くらい)です。

日本では「自然な出産のほうがいい」という風潮があるようです。また、無痛分娩をすると高額な医療費がかかったり、麻酔医が不足していたり、といった要因もあるようです。

アメリカ

(無痛を除く)経膣(けいちつ)分娩 26%
無痛分娩 41%
帝王切開 32%

フランス

(無痛を除く)経膣(けいちつ)分娩 14%
無痛分娩 65%
帝王切開 20%

イギリス

(無痛を除く)経膣(けいちつ)分娩 54%
無痛分娩 21%
帝王切開 26%

日本

(無痛を除く)経膣(けいちつ)分娩 75%
無痛分娩 5%
帝王切開 19%

出産の痛みを例えると

出産の痛みは、人生の様々な痛みの中でも最高レベルと感じる人が多いです。出産の痛みを例えると、以下のような表現になります。

<例>

  • 鼻からスイカを出す感じ
  • ダンプカーに轢かれているような痛み
  • 食中毒を起こしてトイレに行きたいのに、トイレが長蛇の列で我慢している感じ
  • 定期的に内臓を潰されているイメージ

出産の痛みの段階

出産の痛みは、3つの段階に分かれます。

第1期 開口期(かいこうき) 陣痛が始まってから子宮の出口が完全に開くまで
第2期 娩出期(べんしゅつき) 赤ちゃんが生まれるまで
第3期 後産期(こうさんき、あとざんき) 胎盤が排出されるまで

段階ごとの痛みの内容

開口期(第1期)

子宮の出口が広がるように収縮する痛み。赤ちゃんの頭が子宮の出口を徐々に押し広げる痛み。

生理痛のときのように、下腹部や腰に痛みを感じる。

子宮の出口が開いてくると、痛みは急激に強くなり、痛みを感じる範囲も広がる。

陣痛がきているときには、歩行が難しくなってくる。

子宮口全開の直前には、強い下痢を我慢しているような痛みがある。いきみたくなるが、ここでいきんでしまうと、子宮が破裂する恐れがある。力を抜き、いきみを逃して陣痛を乗り越えなければいけない。

娩出期(第2期)

子宮口が開き、赤ちゃんの頭が下がってきて、会陰部への圧迫感や肛門への周辺にも痛みが出てくる。

狭い産道を赤ちゃんが通るため、妊婦さんの骨盤にも強い圧力がかかる。

骨盤はいくつかの骨が組み合わさってできているが、骨と骨は靭帯や軟骨でつながり、下からは子宮や内臓を骨盤底筋という筋肉が支えている。これら骨盤周辺の繊維軟骨や靭帯、筋肉などが圧力とホルモンの力によって緩み、骨盤を広げようとするため、腰痛や恥骨痛が激しくなる。

赤ちゃんの頭が見えてくると、2,3分間隔で痛みが起こり、その継続時間は約50秒。陣痛のタイミングでいきんで赤ちゃんを押し出す。数回いきんだだけで出産できるケースはまれで、初産婦で1~2時間、経産婦でも1時間は必要になる。このときの痛みは「腰が砕けるよう」と表現されるほど強い。

後産期(第3期)

胎盤を排出するために弱い陣痛が起こる。強い痛みのあとなので、あまり感じないという人がほとんど。

会陰切開を行なった場合は、この段階で縫合(ほうごう)を行う。局所麻酔を行うのが一般的。

出産の段階ごとの痛みの長さ

開口期 初産婦で6~15時間、経産婦で3~8時間
娩出期 初産婦で1~2時間、経産婦で20~60分
後産期 初産婦で2~12分、経産婦で2~12分